
2枚のX線画像がありますが、どちらも筆者の胸部を写した画像です。一見、同じ画像に見えると思いますが、「微妙に何かが違う」と思う方もいるのではないでしょうか。
この2枚の画像には確かに違いがあります。それは、Aは息を十分に吸い込んで撮影できた画像であるのに対し、Bは息を吸えていない画像であるという事です。
胸部のX線一般撮影を行った際、担当する技師に「息を大きく吸って止めてください」と言われた経験が多くの方にあると思いますが、この「息を吸って息を止める」という要求に、X線一般撮影では、どの様な意味があるのでしょうか。

胸部におけるX線一般撮影、いわゆる〝胸のレントゲン〟画像ができるまでの一連を簡単に紹介しますと、上記の図のように、背中側にある機械(X線管)より発せられたX線が、背中から胸前面へと抜けます。その際に皮膚はもちろん、臓器や骨をX線は通過しますが、素通りではなく、骨や臓器に吸収されながら通過します。このX線が吸収される度合いは固いものほど高くなります。そして吸収されなかった、もしくは吸収されきらずに残ったX線が受光部(フィルム)に辿り着き、そこに黒の色を付けます。X線が辿り着かなかった個所は白の色になります。この吸収の差で描かれる絵がX線画像です。骨は固いのでX線のほとんどは吸収され、その個所は白色(X線が当たらない=かげ)となり、空気や水の様に固くない個所ほどX線があたり黒くなるのです。この現象は〝かげ絵〟と似ています。
胸のレントゲンは、肺がんや肺炎、肺結核、もしくは胸水の貯留、気胸、肺気腫などの肺疾患を診る事ができます。また、心臓の大きさや形状を確認し、心拡大や心臓が十分に血液を身体に送れていない心不全に陥っているかなども診断できます。そして、画像の下の方には肝臓などの腹部臓器が写りこむことから、それら臓器の問題が示唆されることもあります。
参考:からだマガジン
では、胸のレントゲンを撮る時の「息を吸って止める」ですが、息を十分に吸い込む事で、横隔膜が下がり、肺が大きく広がります。

この瞬間に撮影ができれば、肺が十分に広がった画像ができ、広い診断視野が確保できます。画像の青いラインは、息が吸えていない状態である画像Bの横隔膜上部の高さを示しますが、ラインの下に写る肺の部分は、息を吸えているAの方が広いです。
もし、この部分に肺の疾患がある場合、診やすいのはAです。また、矢印の部分には肝臓の一部が写っています。Aでは息を十分に吸えた事で横隔膜が下がり、画像上では肝臓がフレームアウトしましたが、Bでは横隔膜が下がりきっていない事から、Aより肝臓のフレームアウトが不十分です。そのためAより肝臓が大きく写りこみ〝肝臓が大きい〟との印象を与えます。その場合、「肝臓に病気があるのでは」と疑いたくなるのです。
他にも〝心拡大〟という診断結果があります。漢字の通りに心臓が大きい事を意味しますが、日本語も英語も心臓が大きいとの表現は、〝度胸がある〟〝愛情深い〟〝器量が大きい〟などとポジティブなもので、良い事なのかなと思わせてしまいますが、胸のレントゲン上の診断では、ネガティブな意味を持ちます。
心臓は筋肉でできており、適切なサイズがあります。この適切なサイズよりも大きくなるという事は、心臓の筋肉に絶えず不可がかかり、分厚くなってしまった事を意味し、何故その負荷が生じているのかと考えると、「高血圧や心臓に関わる病気があるのでは」と疑う事となるのです。
心臓が適切なサイズであるか、心拡大にあるかを測る基準があり、これが〝心胸郭比〟です。心胸郭比とは、胸郭横径に対する心横径の比率を百分率で表した指標で、以下の式により求めます。


画像では赤のラインが心臓最大横径を、緑のラインが胸郭最大横径を示します。この心胸郭比の目安は、新生児から成人に移るに連れて変動はありますが、正常は〝50%前後〟とされています。心胸郭比を適切に計測する事にも「息を吸って止める」は重要で、息を吸ったAの画像に対し、吸えていないBでは心胸郭比が4%大きくなりました。これは横隔膜が十分に下がらなかった事より、心臓最大横径が延びてしまったからだと考えられます。この画像ではどちらも基準値以内の値ですが、心胸郭比において4%の差は小さくありません。
そして最後の「息を止める」という動作は、レントゲンの機械でもシャッタースピードの様な調節を行えますが、更に撮影中において息を止める事で呼吸による体動を抑え、ブレた画像になるのを防ぐ効果があります。
「息を吸って止めてください!」は、一般写真の撮影でいう「はい、チーズ!」の様な「これから撮るよ!」という合図と大差ないと思っている方が多くいると思います。 しかし、これを読み、X線一般撮影では画像を診断するにあたり、重要な意味があるのだと知って頂けると幸いです。
青山病院 放射線科